2025年7月16日
日立製作所(東京都千代田区)は7月10日、低温で高出力な発電を可能にする次世代固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術を開発したと発表した。産業用分散電源の高効率化を支え、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する技術として期待される。
従来技術の課題に半導体技術を応用
従来のSOFCは約700℃という高温での稼働が必要で、起動に時間がかかるうえ、断熱材も厚くせざるを得ないなど、適用範囲に制約があった。そのため、低温での運用を目指して電解質層の薄膜化が検討されてきたが、信頼性の確保が課題とされていた。
同社はこの課題に対し、半導体分野で培った技術を応用。SOFCの動作温度を約700℃から519℃まで下げつつ、1W/cm2を超える高出力と高信頼性を両立したという。
具体的には、燃料電池の構造を細かく分けて管理する手法を導入し、各セル単位で性能を評価して不良セルをあらかじめ除去した。これにより故障リスクを抑えつつ信頼性を高めたという。さらに、発電に重要な電解質層を、厚さを保ったまま均一かつ薄く仕上げることで出力密度の向上を実現した。
低温・高出力の両立で用途拡大 社会実装と脱炭素社会の実現をめざす
同技術は、断熱材の使用削減やコスト低減が可能となり、工場の自家発電や災害時の非常用電源など、産業用分散電源や可搬型電源など幅広い用途への適用が期待されるものだ。同社は今後、パートナー企業や補機メーカーとの協創を通じて同技術の社会実装をめざし、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するとしている。
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2025年7月15日
太陽光など再生可能エネルギーで生みだした大容量の電力をためられる定置用蓄電池・蓄電所のニーズが高まっている。エネルギー資源が乏しい日本にとって、特に規模が大きい産業用蓄電池や系統用蓄電池は、発電した再エネ電力を無駄なく使うために不可欠である。蓄電池が再エネ事業の「中核」になりつつある。
目次
1.政府動向: 定置用蓄電池、市場規模は年々拡大
2.産業動向: 系統用蓄電池・蓄電所、開設の動き活発
3.展示会: 定置用蓄電池、展示会も多数開催 中国系に勢い
4.展望・分析:蓄電池・蓄電所はエネルギー政策の行方左右 俯瞰的視点で運用を
1.政府動向
定置用蓄電池、市場規模は年々拡大
経産省の定置用蓄電システム普及拡大検討会は、定置用蓄電池の定義を以下のように規定している。
家庭用:需要家側に設置される蓄電システムのうち、戸建住宅向け、集合住宅向けに供される系統連系タイプの蓄電システム
業務・産業用:需要家側に設置される蓄電システムのうち、商業施設・産業施設・公共施設に併設される電力貯蔵システム
系統用・再エネ併設:系統側に設置され、系統安定化、周波数調整等に使用される系統直付けもしくは系統設備併設の蓄電システム(系統用)、太陽光発電や風力発電のような再エネ発電所に併設される蓄電システム(再エネ併設)
つまり、需要家側、系統側に設置する大きな蓄電システムを、広い意味で定置用蓄電池と呼ぶ。
このような日本国内の定置用蓄電システムの市場規模は、年々拡大している。三菱総研によれば、国内の定置用蓄電システムの導入量は2023年で10000MWhを超え、2020年の倍近くに達した。天候や時間によって発電量に大きな差がある再エネの安定供給に向け、多くの電力をためられる定置用蓄電池は存在感を急速に高めている。
政府、定置用蓄電池導入を支援
政府は2024年度補正予算で、家庭用、業務産業用、再エネ併設用蓄電システムの導入支援事業として127億円を計上。系統用蓄電システムについても、2024年度に27案件(補助金額約346億円)を交付決定した。
ただ、業務・産業用蓄電システムのコストは原材料高、資材価格の高騰などの影響を受けて高止まり傾向にある。経産省によると、「経済性、運用収益の定量評価が難しいために導入に至らないケースも依然として存在する」という。
系統用・再エネ併設蓄電システムについても、産業用蓄電池と同様、集積性やコスト面での課題がある。特に系統用・再エネ併設蓄電システムは為替や市場価格、制度変更など収益性に影響を及ぼす要因が流動的であり、事業計画が立てにくい面は否めない。さらに再エネと定置用蓄電池事業を拡大するためには、ビジネスとして成立することが欠かせない要素になっている。
2.産業動向
系統用蓄電池・蓄電所、開設の動き活発
定置用蓄電池のうち、特に系統用蓄電池・蓄電所を開設する動きが活発になっている。発電事業者、需要家ともに、発電した再生可能エネルギーを可能な限り有効活用したいというニーズが急速に高まっていることが影響している。
JPN、系統用蓄電池事業で新連携 2026年度までに出力10MW開発へ
日本エネルギー総合システム(香川県高松市)は6月30日、秋山興産(同)と系統用蓄電池事業に関する業務提携を締結したと発表した。両社は系統用蓄電所2基の開発で連携を開始する。
三菱HCキャピタルなど4社、北海道千歳市の系統用蓄電池事業で設備着工
三菱HCキャピタルエナジー(東京都千代田区)、三菱地所(同)、大阪ガス(大阪府大阪市)、韓国のサムスン物産は6月16日、北海道千歳市で計画する系統用蓄電事業の設備施工に着手したと発表した。開発する蓄電所は、出力25MW、容量50MWhで、運転開始は2027年1月の予定。
TAOKE、栃木・小山の系統用蓄電所を公開 一気通貫ソリューションに強み
TAOKE ENERGY(東京都港区)は6月17日、同社が手掛けた栃木県小山市の系統用蓄電所を公開した。6月30日から受電を開始する。土地選定から蓄電所の運用まで一気通貫のソリューションを提供できるのが同社蓄電システムの特徴。再生可能エネルギーの有効利用に向け蓄電池への関心が高まる中、今後さらに系統用蓄電所を増やす考えだ。
3.展示会
定置用蓄電池、展示会も多数開催 中国系に勢い
定置用蓄電池・蓄電所に関連する展示会としては、「SMART ENERGY WEEK ~スマートエネルギー WEEK~【秋】2025」(9月17~19日、幕張メッセ)と「SMART ENERGY WEEK ~スマートエネルギー WEEK~【関西】2025」(11月19~21日、インテックス大阪)がある。
定置用は特に中国系の企業に勢いがあり、価格面だけでなく、技術やサービス面でも優位性がある。今後日本の蓄電池市場がどうなるかを見極める上でも、展示会への参加は大きな意味を持ちそうだ。
4.展望・分析
蓄電池・蓄電所はエネルギー政策の行方左右 俯瞰的視点で運用を
経済産業省は蓄電池メーカーなどの事業予見性を高めるため、定置用蓄電池の導入見通しを設定している。系統用蓄電池は2030年に累計14.1~23.8GWh程度、家庭用・業務産業用蓄電池は2030年に累計約24GWh程度を想定している。
ただ、今の社会・経済情勢を鑑みると、エネルギー政策や脱炭素に関わる取り組みが原材料高や株式市場の動向、国際政治などの「外部要因」に大きく左右されている。いくら推計値を出しても、先行きの不透明さは変わりようがない。
政府は2025年2月にまとめた第7次エネルギー基本計画で、2040年までに太陽光や風力などの再エネ比率を40~50%に高める目標を示した。この高い目標達成のためには、再エネを気候や時間に関係なく効率的に使える蓄電池・蓄電所の設置拡大が必須条件である。
再エネは今や、企業だけの利益にとどまらず、日本のエネルギー政策の行方を左右する。太陽光、風力など「単体」での導入ではなく、今後は蓄電池やエネルギーマネジメントシステム(EMS)、電力の効率運用を司るアグリゲーターの選定なども含め、より俯瞰的、複合的な視点で再エネの運用を考える必要があるだろう。
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