2025年9月19日
江戸幕府が鎖国政策をとるなかでも、日本と外交が続いたオランダ。ほかの欧州各国同様、気候危機対策に注力するオランダだが、海抜が低いため地球温暖化や豪雨による海面上昇で影響を特に受けているという一面も。
環境ビジネスは、駐日オランダ王国特命全権大使のヒルス ベスホー・プルッフ氏と、同国への海外直接投資支援を所管とする経済省企業誘致局のトップを務めるヒルデ・ファン・デル・メール氏に、エネルギー・脱炭素分野におけるオランダの特徴や、日本との協業の可能性などについて話を聞いた。
―――グリーン分野におけるオランダの特徴は何ですか?
ヒルデ企業誘致局長:最も重要なのは、政府や企業、大学などが常に協力していることです。
企業は自分たちだけで物事を進めると、できることが限られ、また非常に費用がかかることに気づいたからです。
すべてはオープンイノベーションによって行われています。
企業が自社で研究開発やイノベーションを行うのは非常に時間がかかります。彼らが単独で行うと、国際競争力が不足し、非常に費用もかかります。国際的な協力が、スタートアップ、大学、研究機関、他の企業とも垣根なくできれば、結果ははるかに速く得られます。
そして、オープンイノベーションはオランダ国内だけでなく、ヨーロッパ諸国や世界各国とともに行われています。私たちにとって、多くのイノベーションを共有している国の1つが日本です。
ヒルス大使:重要なのはグリーンエネルギー、風力、太陽光、そして水素です。しかし、それには多くの投資が必要です。ですから、伝統的なエネルギーを使用し、その炭素部分に制限を設ける手段も講じています。
そうするなかで、私たちは水素に力点を置こうと努めています。水素は非常に便利なエネルギー手段です。
ただ、いくつか課題もあります。グリーン水素は、多くの再生可能エネルギー、つまりグリーン電力を必要とするため、生成するのが非常に困難です。ですから、現時点では、私たちは多くのグレー水素を使用しています。
私たちはかつてガスを生産していたため、オランダには広範なガスのインフラシステムが整備されています。この既存のガスパイプラインネットワークをCCS(炭素回収貯留)プロジェクトや別のガスである「水素」の輸送に活用することができるのです。
ですから、私たちは水素に非常に注目しているのです。
また、オランダには、Porthos(ポルトス)と呼ばれる大規模なCCSプロジェクトがあります。
ロッテルダム港の精油所、化学プラント、鉄鋼産業などから排出される CO2 を回収、輸送し、今は空になった北海のガス田に貯蔵します。
これは世界をリードする大規模プロジェクトです。
そして、原子力エネルギーも検討しています。なぜなら、私たちは開発を維持するためにエネルギーが必要だからです。
オランダでは、日本と同様に、原子力エネルギーを使用すべきかどうかについて多くの議論があります。おそらく十分な代替エネルギーが得られるまでの一時的なものとして。
しかし、日本とオランダの協力の最善の方法の一つは、短期的には風力と太陽エネルギーであり、 長期的には水素だと思います。
―――オランダは研究開発が特に盛んな国だと伺いました。その背景にはどのようなものがありますか?
ヒルデ企業誘致局長:オランダには研究開発を促進するビジネス環境が整っています。それは、イノベーションを刺激するインセンティブのみならず、欧州最大の港を含む優れた物理的インフラ、世界最大級のインターネット エクスチェンジ ポイントを含むデジタル インフラ、そして高度な教育を受け、デジタル リテラシーを兼ね備える人材プールなどによって支えられています。
この背景には政府が研究開発を増やすという目標を掲げていることにあります。イノベーションが最高レベルにある今、競争力を維持できると考えたからです。
どの国も特定の分野で秀でる必要があります。そこでオランダは、自分たちが秀でていること、そして秀でたいことを検討してきました。
オランダはとても小さな国なので、私たちはこれまで以上に競争優位性を高め、国際的に協力していく必要があります。
―――オランダと日本企業の協力の現状についても教えてください。
ヒルス大使:一般的に協力できる領域は3つあると思います。
1つ目は、グリーンエネルギーの開発を始めること。あるいは、既存のエネルギーを脱炭素化することです。
例えば、風力発電エネルギーです。私たちの国はこれに大変長けていると自負しています。オランダに面する北海はとても浅いので着床式を使っていますが、日本近海はとても深いので、そこでは浮体式が検討されています。
また、ソーラーダック(SolarDuck)というオランダの会社が、東京港で水上浮体式の太陽光パネルを設置する実験を行っています。嵐や大きな波の中でもかなり安定するものです。
2つ目は、エネルギーの使用量を減らすことです。 ここで、エネルギーをどのように使うかについて賢く考えることが重要になります。
この分野では、AIから多くの恩恵を受けることができます。もちろん人工知能を用いることは多くのエネルギーを消費することにつながるので、バランスをとらなければなりません。
3つ目は、循環型経済と廃棄物の利用だと思います。特に、廃棄物発電やバイオマス発電などの再生可能エネルギー技術によって再利用が可能となるエネルギー残留物を持つ廃棄物です。
アバンティウム(Avantium)というオランダの会社がペットボトルから生分解性プラスチックを製造しています。
グリーンエネルギー、エネルギー使用量の削減、そして循環型経済、これら3つのすべての分野で、日本とオランダの協力に非常に良い可能性があると思います。
―――オランダに進出する企業には、どのような種類の補助金や支援制度がありますか?
ヒルデ企業誘致局長:まず大規模なヨーロッパの制度として「ホライズン・ヨーロッパ」(研究・イノベーションに向けたEUの資金助成プログラム)や、企業がオランダで研究開発を行う際に税金が減額されるWBSOという制度もあります。
研究開発の人材を雇用すると、イノベーション関連の税制優遇措置も受けられる場合があります。
また、オランダの様々な地域で、オランダにとって新しいイノベーションに特化した特定の補助金や参加制度もあります。
ですから、まだオランダにない特定のイノベーションを開発するために、日本企業がオランダで協働開発することは大変歓迎されています。
―――EUの国々と比較して、オランダの魅力は何だと思いますか?
ヒルス大使:私たちはもちろん自国の言語であるオランダ語を話しますが、大変小さな国であり、大きな国々に囲まれているため、ドイツ語、英語、フランス語のような他国の言語も話す必要があります。
非常に国際的な環境であり、誰もが英語を話すため簡単に働き始めたり、生活を始めたりすることができます。
またオランダ人は、既成概念にとらわれずに行動したいと考えており、通常、自分たちがすることについて非常に前向きでプラス思考です。
官民パートナーシップ、トリプル・ヘリックス(政府、研究機関、企業)、時にはクアドラプル・ヘリックス(政府、研究機関、企業、国民)でビジネスを行うというコンセプトが非常に良いエコシステムを構築しており、自分たちのビジネスに他の要素をどう取り込んでいくかを学ぶのに非常に役立っています。
現在開催中の大阪・関西万博の海外パビリオンにオランダは公式参加をしており、来る9月22日には持続可能なエネルギーへの移行を推進するビジネスイベントが開催される予定で、ここではオランダと日本のエネルギートランジションへのアプローチの違いや、将来の優先事項について議論がなされます。
ヒルデ企業誘致局長:オランダはリラックスしていて、ワークライフバランスがとても良いです。
ビジネス環境は非常に競争力があり、物流事情は大変良く、デジタル環境も優れています。そのため、オランダにはすでに800以上もの日本企業の拠点が展開されており、約5.2万人の人々を雇用しています。
他のヨーロッパ諸国と比較すると、オランダには大変多くの日本企業が進出していると思います。
―――オランダ人とコミュニケーションをとる際に、日本人が心にとどめておくべき重要なことは何ですか?
ヒルデ企業誘致局長:オランダ人は一般的に非常に直接的だと思います。あまり階層的ではありません。例えば、もしあなたが私の上司だとして、何かを頼んできた場合、上司が言うことに疑問を持たず、言われたことをやる、ということはせず、私は疑問に思えば「なぜこれをやるのですか?」と尋ねるでしょう。
私たちは常に「なぜ?」と尋ねます。私たちはお互いによく理解し合いたいのです。
それから、オランダの企業やオランダに進出している企業には、国際色豊かな人材が多く活躍しています。30~40カ国以上の国籍の従業員を雇用するのはごく一般的です。例えば、アムステルダムやロッテルダムのような都市では、180カ国以上の国籍の人々が共存しています。
非常に国際的な職場環境なので「ワンサイズ・フィット・オール(万人向け)」ではありません。オフィスで話されている言語は主にオランダ語と英語であり、世界中から人々が集まって働いています。
(了)
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2025年9月18日
日鉄エンジニアリング(東京都品川区)は9月11日、石油資源開発(JAPEX/同・千代田区)、エンバイオC・ウェスト合同会社(同)、からくさホテルズ関西(大阪府大阪市)と共同で、物流施設屋上で発電した再エネをオフサイトPPAで活用するスキームを構築し、運用を開始したと発表した。この取り組みは、需要特性の異なる複数の需要家に電力を供給する点に特徴がある。
運用スキームとしては、まずエンバイオC・ウェストGKが、物流施設「ロジスクエア京田辺A」に設置・所有する出力1875kWの太陽光発電設備にて、再エネ電力を創出する。特定卸供給事業者であるJAPEXが、発電した電力を調達し、小売電気事業者である日鉄エンジニアリングが、からくさホテルズ関西などの複数の需要家に託送供給を行う。
初年度の年間発電量は約3471MWhの見込みで、CO2排出量は年間1468t削減できるという。
供給先に電力需要の特性が異なる施設を組み合わせることで、再エネ由来余剰電力の低減につながり、効率的な再エネ活用が実現できると、日鉄エンジニアリングらは同スキームのメリットを説明している。
日鉄エンジニアリングは、これまで20年以上にわたり、地産地消電力による地域循環共生圏の構築やPPAによる再エネ電源導入促進、発電・蓄電設備などの調整力の需給調整市場への活用を含めた電力ソリューションを提供している。
近年は、オンサイトPPAの新たな活用法として「発電余剰電力融通型」に着目し、導入を進めている。2024年には、YKK AP(東京都千代田区)向けに、埼玉県美里町の「YKK AP埼玉工場」新建屋で発電した再エネ電力を、埼玉県内の別の2拠点に託送する取り組みを開始した。この取り組みにより、初年度は年間約117万kWhを発電、CO2排出量削減効果は年間512tとなる見込みだ。
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