2026年5月9日
キリンホールディングス(東京都中野区)は4月30日、SBTイニシアチブ(SBTi)による「SBTネットゼロ認定」を再取得し、農作物生産活動由来のGHG排出削減目標である「FLAG目標」を新たに設定したと発表した。
農作物由来の排出量を2030年までに33%削減することを掲げ、スコープ1・3の両面からネットゼロの実現を目指す。スコープ3の削減計画では、2030年時点までに約20億円の投資を見込む。
森林・土地利用・農業の頭文字からなる「FLAG」目標は、SBTiが定めた農業・林業・そのほかの土地利用からの科学的根拠に基づくGHG排出削減目標のこと。
キリングループでは、主に酒類事業と飲料・ヘルスサイエンス事業で、多くの商品が農産物を原料としている。新設したFLAG目標では、GHG排出量を2030年に基準年(2019年)比33%削減を目指す。このFLAG目標は、スコープ3に加えスコープ1も対象としており、エネルギー由来の排出への取り組みを継続しつつ、森林・土地利用・農業を対象としたFLAGについても、取り組みを強化していく。
スコープ3対策では、アルミ缶、PETボトル、麦芽などのサプライチェーン上流での排出削減にサプライヤーと協働で取り組む。これらはコスト増加を伴うため、今まで以上の投資や費用を見込んでいる。財務目標と非財務目標の同時達成を目指すため、施策実行判断の新たな仕組みが求められる。そこで、GHG削減の費用対効果や財務インパクトをシミュレーションし、経営全体で施策の優先順位を明確化するスキームを構築・運用を開始した。現時点で実現可能な施策を試算すると、スコープ3移行計画による財務インパクトは、2030年時点で約20億円を見積もっている。
また、2024年4月から開始した「キリンサプライチェーン環境プログラム」では、進捗をグループCSV委員会や傘下会議体のグループ環境会議で審議・意見交換することで、経営層の関与を強化している。新規施策の抽出から実行判断までを迅速化する仕組みを構築し、財務インパクトを都度確認するプロセスを組み込むことで、持続可能で経済合理性の高い環境経営を推進していく。
スコープ1の排出対策としては、同社が保有する圃場において、土壌改良資材であるバイオ炭の施用などのGHG排出削減に向けた取り組みを試験している。
具体的には、長野県上田市のシャトー・メルシャン椀子ヴィンヤードにおいて、農研機構の協力を得て、気候変動の緩和策である炭素貯留効果を評価する共同研究を2024年3月から開始した。
この共同研究では、ヴィンヤードのブドウの剪定残渣(剪定したブドウの枝)などを活用したバイオ炭による炭素貯留効果を評価している。また、このヴィンヤードでは一般的にGHG排出の削減につながるとされている、土壌を耕さずに作物を栽培する農法「不耕起栽培」・カバークロップ・化学肥料の適切な管理などを定常運用している。
カバークロップは、主作物の栽培期間外や畑の空いている部分に被覆植物を栽培する農法をいう。土壌表面を植物で覆うことにより、土壌有機物量の維持や土壌侵食の抑制を通じて、条件によってはGHG排出量の低減につながる可能性があるとされている。
キリンホールディングスは、事業を通じて社会課題を解決し、社会的価値と経済的利益を両立させる「CSV(共有価値の創造)」を経営の中心に据えている。「世界のCSV先進企業となる」ことを目指し、2020年に「キリングループ環境ビジョン2050」でバリューチェーン全体のGHG排出量のネットゼロを目指すことを宣言した。さらに、目標達成に向けたロードマップを策定して、2022年1月より運用を開始している。
一方、キリングループにとって重要な農産物を持続可能に生産・調達するために、農産物生産活動由来のGHG排出削減にも取り組むことが重要になってきた。そこで、キリングループの事業ポートフォリオ変革や、外部環境の変化に伴うSBTiガイドラインの改定を踏まえ、2022年7月に世界の食品企業として初めて取得した「SBTネットゼロ認定」を3月に再取得し、FLAG目標を新設した。
農業分野におけるGHG排出量が地球全体の排出量に対して一定規模を占めるため、近年、その対策が求められるようになってきた。農産物の生産方法は品種によってもさまざまだが、中でも大量生産を前提とした、工業的農業と呼ばれる農法がGHG排出の大きな要因となっている。
工業的農業では、一般的に、収量を最大化するために大量の化学肥料を使用し、土壌を反転・攪拌して作物の生育を整える耕起や、単一作物などの大規模栽培を行う。これらの手法は、温室効果の高いN2O(亜酸化窒素)の排出を引き起こし、土壌に蓄積された炭素を大気中へ放出させる原因となる。また、GHG排出だけではなく、土壌や水などの環境にも負の影響を及ぼしている。
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