2018年8月12日
新電力のみんな電力(東京・世田谷)はブロックチェーンを活用した新たな電力取引の仕組みを開発している。だれでも発電し電気を売れ、だれからどんな由来の電気を買ったのかがわかる。電力のピア・ツー・ピア(P2P)取引を可能にする。みんな電力の三宅成也取締役事業本部長に開発の狙いなどを聞いた
――ブロックチェーンを活用した新しい電力取引プラットフォームをつくるそうですね。
「発電事業者と需要家を直接結び、相対で取引ができるプラットフォームの開発に取り組んでいる。これまで需要家は電力小売事業者を通じて従量課金でしか電気を買えなかった。言い換えれば小売事業者のメニューのなかで需要家は電気を選択するしかなかった。開発中のプラットフォームでは30分ごとの電力を個々の発電事業者が個々の需要家に直接売ることができる。需要家からみれば、だれがどこでつくった電力なのかがわかる『顔の見える電力』になる」
――どんな仕組みで実現するのですか。
「電力小売事業者はバランシンググループ(BG)という仕組みをもつ。電気の供給元である複数の発電所をまとめた発電BGと、電気の売り先である需要家をまとめた需要BGがあり、発電BGで明日の発電量を30分ごとに積み上げて供給量を予測し、需要BGも30分ごとの需要量を予測して、30分ごとの需給をぴったり合わせるようにしている。足りなければ市場で調達する。これはBG同士でトータルの需給バランスをみているわけだが、ブロックチェーンを応用すればBGの中の個々の発電所と需要家の間の個別取引に変えていくことができる」
「個々の発電所で30分ごとの電力に対応する『トークン』を発行する。1キロワット時あたり『1電気トークン』で何円と示す。需要家は必要な電力分に対応するトークンを入手する。トークンとはブロックチェーンで定義された仮想通貨のようなものだ。私たちが提供するプラットフォーム上で取引が成立すると、取引量に対応するトークンが供給者から需要家のウォレット(仮想通貨を扱う口座)に移転され、受け取ったトークン分の代金が課金される。ブロックチェーンを使うので透明性が高く、検証可能な取引ができる。取引あたりの手数料は低く抑えられるとみている」
――電力のやりとり自体はこれまでのBG間の需給マッチングのままで、トークンを付加することでだれの電気がだれに買われたのかが示せるわけですね。同じ再エネの電気を二重使用していない証明もできる。いつから始めるのですか。
「まずは取引ではなく、トラッキングのサービスを2018年秋から始めたい。各発電所の電気がだれに購入されたか、需要家からみればどこの発電所の電気を購入したかがわかるようにする。需要家から電気の由来を知りたいとするニーズは強い。100%再生可能エネルギーで自社需要を賄う『RE100』を宣言する企業が日本でも徐々に増え始めているが、どこのメガソーラーで発電したかなど、電源の情報がないと国際的には再エネ100%と認められない」
「日本政府は非化石価値証書を発行して二酸化炭素(CO2)を排出しない電源である証明にしようとしているが、証書には電源の情報が含まれていないので国際的に認められるのか微妙だ。アップルなどRE100を目指す欧米企業はサプライチェーン全体での再エネ比率100%を目指しており、日本企業もRE100に対応せざるを得なくなる」
――個人の需要家の中には、再エネと同じ「非化石」でも原子力発電ではない電気をほしがっている人もいますね。
「第2段階として個別の取引を手掛ける。これから固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期限を過ぎた太陽光発電がたくさん出てくる。屋根に太陽電池を載せてこれまで電力会社に電気を買ってもらっていた人は期限が過ぎたらどうするのか。私たちのプラットフォームができれば、そこで個人が電気を売ることができる。供給者であり需要家である『プロシューマー』になる。大きな電力会社が電気をつくってたくさんの需要家に売るという、これまでの電気の販売の形が変わる」
――ただ「電気には色がない」といわれます。どこでだれがつくった電気も同じ効用を持つのだから、小さな発電事業者がたくさん生まれるのは意味がなく、むしろ非効率だとの見方があります。
「確かに電気には物理的には差がない。しかしだれが電気をつくったかには意味があり、消費者の関心はそこにある。再エネなのか、原子力なのか、石炭火力なのか、需要家は区別を望んでいる。電力の地産地消を目指す動きでは地域でつくった電気を使いたいと望む人がいる。ふるさと納税と似た発想でふるさとの発電所でつくった電気を買いたいという人がいるかもしれない。電気の『履歴』を明らかにすることで新しい価値が生まれる」
「再エネも原子力も石炭火力もすべての電気を混ぜて『ベストミックス』と呼んで一物一価にしてしまうのは、もはや時代の潮流からずれている。わたしたちはマインドセットを変える必要がある」
――新電力のビジネスモデルも変わりますね。
「電力小売自由化といっても、30分ごと同時同量で需給をバランスさせなければいけない。ある程度の規模があるBGをもつ小売事業者なら何とかなっても、結局は規模の経済の有利性をもつ大手電力会社が強いのは変わらない。仮に将来、私たちが提唱するプラットフォームが十分に大きくなり多くの事業者が共有可能なものに成長したら、需給調整の機能はプラットフォームに任せ、小売事業者の果たすべき役割も変わるだろう」
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