2018年7月28日
一般社団法人エネルギー情報センター
経済産業省は7月、「平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査」を公表しました。調査報告書から、蓄電池やVPPなどの技術を活用した海外の先進事例とビジネスについて見ていきます。
世界的に再生可能エネルギーの導入が拡大し、コスト低減が進んでいます。しかし、太陽光や風力などによる発電方法については、供給量の変動が著しく、また単体では制御が難しいことが課題とされています。
この課題に対応するには、エネルギーマネジメントシステムの役割が重要です。そこで、蓄電池やVPPなどの技術を活用した海外の先進事例とビジネスについて見ていきます。
Next Kraftwerke社は、2009年にドイツで設立されたスタートアップ企業です。商用ベースでVPP事業を展開しており、太陽光発電・風力・バイオガス・非常用発電機・コージェネレーションシステム・蓄電池など多岐にわたるリソースを持ちます。
これらをまとめたリソースを「Next Pool」と名付けており、需給調整市場や電力取引市場を介した取引を行っています。現在では、VPPリソースの数は5140基、電力容量としては4032MWにも上ります。
VPPリソースの制御にあたり、需要家は自ら制御を行う以外に、「Next Box」と名付けられた制御通信端末を用いることもできます。Next Kraftwerke社は、「Next Box」を介して需要家の所有しているVPPリソースの情報収集および挙動制御を行うことができます。
Next Kraftwerke社は、電力会社から節電等の要請を受けて、需要家に対して生産設備等の稼働や停止を指示します。需要家は、電力需給の指示に従った分に応じて、Next Kraftwerke社からインセンティブを受け取ることができる仕組みです。
なお、Next Kraftwerke社では、ウェブサイトを通じて、VPPの役割を理解することができるゲームコンテンツを公開しています(図1)。一般需要家にとって馴染みの浅いVPP事業を楽しく理解することができ、PRにも貢献していると考えられます。
図1 VPP のシミュレーションプログラム 出典:経済産業省
Energy Pool社は、2009年にフランスで創業したDRサービスを展開している企業です。現在は「Energy Pool」ブランドとして、欧州各国の電力会社へ、エネルギーマネジメントサービスを提供しています。日本においても、2014年から事業を開始しています。
サービスの特徴としては、産業用需要家の生産ラインを対象としたDRプログラムを構築していることです。まず、産業用ユーザーの敷地内に「DR Box」と呼ばれるゲートウェイ機器を設置し、数か月から一年もの時間を掛けて顧客の生産ラインの特性を把握します。その上で、顧客の了解のもと、同社のリソースポートフォリオに組み入れるとしています。
このDRプログラムは、大規模電源から調整力を調達した場合と比較して、系統の混雑回避に優位性があります。また、DR発動時には実質的にカーボンフリーが可能になることに加えて、火力発電など調整力電源の新設コストを踏まえると、一定の価格競争力があります。
Energy Pool社は、再生可能エネルギー余剰時に、一部休止中の生産設備に増産を要請し需要を創出することで、再エネの有効活用が可能であることを実証しました(図2)。このような需要創出型DRは、再エネ等に起因する出力変動を抑え系統制約を緩和する手段となり得えます。
図2 需要創出型DRの実証例 出典:経済産業省
AutoGrid社は、2011年にアメリカで設立されたエネルギー解析ベンチャー企業です。過去のエネルギー消費性向に着目した独自の分析アルゴリズム技術により、電力消費量予測サービスなどを可能にする分析基盤を、電力会社に提供しています。
また、この技術を基盤として「AutoGrid VPP」というVPP事業プラットフォームを提供しています(図3)。「AutoGrid VPP」は、エネルギーリソースの膨大なネットワークをリアルタイムで集約して、予測・最適化・制御を行うものです。これにより、顧客が持つ多種多様なリソースから、利益を生みだすための支援を行うとしています。
図3 AutoGrid VPPの画面表示例 出典:AutoGrid社HP
Greensmith社は2008年にアメリカで設立された、エネルギーストレージソフトウェアとインテグレーションサービスを手掛ける大手プロバイダーの一つです。
GEMSと呼ばれる同社のソフトウェアプラットフォームは、現在では第五世代となります。グリッドスケールだけではなく、マイクログリッドソリューションまで、効率的で安定した送電を可能にします。コスト削減およびシステム寿命の最大化による最適なパフォーマンスを実現するとしています(図4)。
また、「Behind-The-Meter」と呼ばれる需要家側に設置する蓄電池も取り扱っており、蓄電量は180MWで、電力会社や独立系発電事業者等50社と契約しています。
図4 Greensmith社のプラットフォーム導入先マップ 出典:経済産業省
Enervee社は2010年にアメリカで設立された、家電等の比較プラットフォームを提供している企業です。プラットフォームでは、エネルギー効率の高い家電・デバイス・電気製品に点数をつけて、消費者が比較することができます(図5)。
「The Enervee Data Engine」と名付けられたウェブサイトでは、毎日何百万件ものデータを収集・加工して、一般に提供しています。消費者は、同ウェブサイトでエネルギー効率を評価する「Enervee Score」を確認し、人気度やレビューなどのデータと組み合わせることで、最適な製品を探すことができます。
なお、Enervee社によると、1年間に全米人口の30%が「Enervee Score」が90点以上の家電を購入すると、省エネ効果は累計で9000GWhになると試算しています。
図5 Enervee Scoreの算出方法 出典:経済産業省
Stem社は、2009年にアメリカで設立されたスタートアップ企業であり、商業および電力会社向けの蓄電池システムを提供しています。蓄電池はStem社が所有し、システム導入によって得られた電気料金の削減分の一部をStem社が収入として得るという特徴的なビジネスモデルを持ちます(図6)。
応答速度に優れた蓄電池を自動制御することが可能であり、電力会社からの要請に対する応答速度が素早い(5分以内)ことが強みです。現在、同社のネットワークには800以上もの蓄電池システムが接続されています。これらのネットワークを用いて、2017年には600回以上の需給調整対応を行った実績があるとしています。
図6 Stem社のビジネスモデル 出典:経済産業省
Sunverge社は2009年にアメリカで設立されたスタートアップ企業であり、分散型エネルギー貯蔵管理システム「Sunverge Solar Integration System(SIS)」を構築しています。
SISの特徴は、多様なメーカーの蓄電システムや太陽光発電システム、EVといった分散型エネルギーリソースを接続できる点です。住宅用太陽光に蓄電システムを併設し、再エネ源を近隣レベル、地域レベル、供給地域全体で効果的にVPP統合するソリューションを提供しています。
SISを構築するうえで重要な機器である定置型蓄電池ユニット「Sunverge One」は、出力6.4kW・容量11.8kWhのスペックを持ちます。なお、2017 年12月、Sunverge 社は東京電力および三井物産と協力して、送配電系統で蓄電ユニットを単一仮想ノードとして管理するプロジェクトを開始したと発表しています。
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